歴代教授業績

歴代の教授

西田 豊明 平成16年4月1日-令和2年3月31日
松山 隆司 平成10年4月9日-平成28年12月12日
乾 敏郎 平成10年4月9日-平成27年3月31日
奥乃 博 平成13年4月1日-平成26年3月31日
後藤 修 平成15年4月1日-平成24年3月31日
佐藤 雅彦 平成10年4月9日-平成24年3月31日
小林 茂夫 平成10年4月9日-平成24年3月31日
池田 克夫 平成10年4月9日-平成13年3月31日
堂下 修司 平成10年4月9日-平成11年3月31日

◆歴代教授の業績◆ 西田 豊明 (京都大学名誉教授・東京大学名誉教授)

略歴

在職期間: 平成16年4月1日-令和2年3月31日

西田 豊明

西田 豊明

昭和52年3月に京都大学工学部情報工学科を卒業、昭和54年3月に同工学研究科修士課程を修了、昭和59年3月に京都大学工学博士の学位を授与された。昭和55年4月より京都大学工学部に助手として採用、昭和63年6月に助教授に昇任後、平成5年4月に奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科教授に着任した。その後、平成11年4月に東京大学工学系研究科教授に着任、平成13年4月東京大学情報理工学系研究科教授を経て、平成16年4月に京都大学情報学研究科教授に着任した。

16年間にわたる京都大学在職中、人工知能、特に会話情報学に関する教育研究、研究プロジェクトを推進し、優れた研究成果を挙げた。また、多くの学生の指導に当たり学術および産業界を牽引する優れた人材を輩出した。6名の博士号取得者を輩出し、博士課程学生、修士課程学生の指導中にIEA-AIE 2008 Best Regular Paper Award、GRAPP 2010 Best Student Paper Awardなど7件の受賞をしている。

情報学研究科においては会話情報学の講義など、工学部においては、情報符号理論、計算機科学概論などを担当してきた。学内においては、京都大学公開講座等企画委員会委員、博士課程教育リーディングプログラム運営委員会委員、国際高等教育院企画評価専門委員会人文・社会科学部会委員、情報学研究科では企画委員会委員、基盤整備委員会委員などを務めた。平成19年度から23年度まで実施されたグローバルCOEプログラム「知識循環社会のための情報学教育研究拠点」では、原初知識コアリーダーとして運営に貢献した。また、平成22年度のICTイノベーション2011の実施、平成28年度の情報学研究科における人を対象とする研究倫理審査体制の立ち上げ、平成28年度の工学部教育シンポジウムの実施などで主要な役割を果たした。平成28年度と29年度に知能情報学専攻長、平成19年度と29年度に工学部情報学科計算機科学コース長を務めている。

国外での活動としては、Web Intelligence Consortium (WIC)のTechnical Committee委員を長年にわたって務め、WI 2003のConference Co-Chair、WI/IAT 2006のProgram Chairなどの貢献により、平成18年にOutstanding Service Awardを授与されている。また、平成9年からAI & Society誌(Springer)のAssociate Editor、平成25年からSpringer LNEE編集委員などの貢献がある。平成13年に社会知デザイン国際ワークショップSID (Social Intelligence Design)を創設し、2010年までの10年間にわたり学術コミュニティに貢献した。平成28年にはマルチモーダルインタラクションの最重要会議ICMIの共同議長を務めた。

国内の活動としては、平成16年度電子情報通信学会・ヒューマンコミュニケーショングループ委員長として分野運営への貢献、平成21年から29年までJST CREST「共生社会に向けた人間調和型情報技術の構築」の領域アドバイザ・副統括、総括として領域の運営への貢献、平成22年度から24年度まで日本学術振興会学術システム研究センター主任研究員として平成25年度公募から採用された系分野分科細目表における情報学分科レベルから分野レベルへの格上げに伴う審査区分改革への貢献、平成22年度から23年度まで人工知能学会会長として学会運営に貢献した。平成18年から日本学術会議連携会員、2度にわたる情報処理学会の理事、国際複合医工学会理事などとして学術活動への貢献がある。平成28年度から30年度まで総務省「AIネットワーク社会推進会議」構成員、平成23年度から27年度まで三菱財団選考委員、平成30年度から服部報公会審査委員、平成31年度から一般財団法人ATRメタリサーチイノベーション協会理事、令和元年戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)選考パネルを務めた。このほか、国立情報学研究所運営会議委員、国際電気通信基礎技術研究所客員研究員、独立行政法人産業技術総合研究所研究ユニット評価委員、未来工学研究所分科会委員、大学評価・学位授与機構・国立大学教育研究評価委員会専門委員、大阪科学技術センター「食と健康のためのユビキタス情報基盤研究会」主査、オープンラボ研究推進協議会けいはんな情報通信オープンラボ研究推進連絡協議会分科会リーダー、NEC C&Cイノベーション研究所研究コンサルタントなど、幅広く社会貢献を行った。

西田豊明教授は長年にわたり人工知能研究に取り組み、日本の人工知能研究をリードしてきた。とくに、自然言語理解、定性推論、社会知デザイン、会話情報学の研究分野で顕著な貢献をした。その主な内容は,次の通りである。

主な研究内容

  1. 自然言語理解の研究
    内包論理の手法を導入することによって、関数型計算に基づいて言語表現を意味表現に見通しよく変換する独自の方式を創出し、モンタギュー文法を用いた機械翻訳システムとして具体化した。また、自然言語描写に含まれる曖昧性と漠然性をモデル化するためにポテンシャルモデルという考え方を導入し、空間を描写した文章から情景を再構成する自然言語理解システムを開発した。
  2. 定性推論の研究
    動的システムの挙動の構造を第一原理レベルから解析し、説明生成や診断などに応用することを目指して、動的システムの構造記述から挙動メカニズムを導出するための因果解析手法を開発するとともに、動的システムにおける不連続変化の生起のパターンを分類することにより、不連続現象を取り扱うことのできる動的システムの挙動自動解析システムの実現に成功し、国内外で高く評価された。さらに、幾何学的推論を用いて数値計算と数式処理を知的に制御することによって常微分方程式の挙動の構造を自動解析する一連のプログラムを開発した。この業績によりそれまで素朴な手法に依存していた定性推論技術が技術的に堅固なものとなった。
  3. 社会知デザインの研究
    人間とエージェントの共生系における知識プロセスを実現するために、平成10年度から14年度に実施された総務省情報通信ブレイクスルー基礎研究21「西田結集型プロジェクト」、およびその後平成14年度から平成18年度にかけて実施された社会技術研究システム「会話型知識プロセス」サブグループを拠点とした取り組みを行い、情報通信技術から社会心理学までの幅広い手法を統合して、システムのデザインから評価までを包括的に捉えた社会知デザインの枠組みを提唱し、国際ワークショップ(Social Intelligence Design)を10年にわたり主宰し、国際的なリーダーシップをとった。
  4. 会話情報学の研究
    平成13年度から17年度まで西田豊明教授が代表を務めた学術創成研究「人間同士の自然な コミュニケーションを支援する知能メディア技術」の成果を統合・一般化して、会話の理解と拡張に総合的に取り組む学際研究分野として世界に先駆けて提唱したものである。会話情報学の研究では、没入型スマート環境を用いて会話環境を拡張する技術、視聴覚センシングと生理指標を組み合わせた会話計測とモデリング手法、マルチモーダルインタラクションデータからの頻出パターンと因果関係抽出に基づく模倣学習技術などから構成されている。その後、平成19年度から23年度まで西田豊明教授が代表を務めた基盤研究(S)「会話エージェント研究共有プラットフォームの構築と利用技術の研究」や理化学研究所・革新知能統合研究センター「人とAIのコミュニケーション」チームなどの取り組みを通して発展し、知能情報学専攻における分野・講義科目として定着した。最近は、会話の進行とともにその基盤となるコモングラウンドがどのように更新されていくかをインタラクティブドラマとして規範的に明示する会話のエンビジョニングに取り組み、会話情報学をリードしている。

これらの成果により、平成16年に京都大学情報学研究科教授に着任以降、平成23年にIEEE CS Granular ComputingからOutstanding Contribution Awardsを受賞、平成25年度人工知能学会功績賞を受賞、国際会議・論文誌で8回の最優秀論文賞を受賞、平成18年に情報処理学会フェローに認証、平成24年電子情報通信学会フェローに認証、国際会議基調講演・招待講演25回、国内招待講演・基調講演8回を行うとともに、11冊の書籍(共著、編著を含む、分担著は含まない)を上梓するなど、高い評価を受けた。

◆歴代教授の業績◆ 松山 隆司 (京都大学名誉教授)

略歴

在職期間: 平成10年4月9日-平成28年12月12日

松山 隆司

松山 隆司

松山隆司教授は昭和49年3月に京都大学工学部電子工学科を卒業、昭和51年3月に同大学院工学研究科電気工学第二専攻修士課程を修了し、昭和55年11月に京都大学工学博士の学位を授与された。昭和51年4月より京都大学工学部助手、昭和60年8月より東北大学工学部助教授、平成元年5月より岡山大学工学部教授を経て、平成7年4月に京都大学工学部教授に着任した。また昭和57年11月から昭和59年2月の間、米国メリーランド大学に客員研究員として滞在した。その後、平成8年4月に同大学工学研究科電子通信工学専攻に配置換え、平成10年4月の情報学研究科の創設に伴い同研究科知能情報学専攻に配置換えとなった。平成28年12月12日、心疾患によりご逝去された。

この間永年にわたって、視覚情報処理、分散協調処理に基づいた知能システムに関する教育研究に従事し、多数の先駆的な研究成果を挙げるとともに、多くの学生の指導に当たり学術及び産業界を牽引する優れた人材を輩出してきた。主査を務めた博士学位取得者は17名にのぼる。指導を受けた学生は電子情報通信学会論文賞、情報処理学会山下記念研究賞など多数の論文賞や研究賞を受賞している。

工学部においては、基礎情報処理、ディジタル信号処理、知能型システム論、計算機ソフトウェア、電気電子プログラミング及演習等を企画、担当するとともに、 情報学研究科においてはコンピュータビジョン、パターン認識特論等の講義を担当してきた。 学内においては、学術情報メディアセンター長(平成14~17年度)、評議員(平成14~17年度)、情報環境機構長(平成17~22年度)、副理事(平成20~22年度)等の役職を歴任し、大学の情報環境構築と改善に貢献した。

学外においては、情報処理学会コンピュータビジョンとイメージメディア研究会主査(平成6~8年度)、同フロンティア領域委員長(平成9~12年度)、同理事(平成12~13年度)、独立行政法人情報通信研究機構知識創成コミュニケーション研究センター長(平成18~19年度)を歴任するとともに、日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業「分散協調視覚による動的3次元状況理解」(平成8~12年度)のプロジェクト・リーダや特定領域研究「ITの深化の基盤を拓く情報学研究」(平成13~17年度)および「情報爆発時代に向けた新しいIT基盤技術の研究」(平成17~22年度)における柱長、文部科学省研究プロジェクト「知的資産の電子的な保存・活用を支援するソフトウェア技術基盤の構築」(平成16~20年度)におけるプロジェクト・リーダなど数多くの研究プロジェクトを牽引した。

国際的には、平成21年にコンピュータビジョン分野における最高峰の国際会議ICCV2009を京都に誘致し実行委員長として運営にあたり大きな成功を収めた。さらに、京都府参与(平成14~24年度)、経済産業省独立行政法人評価委員会委員(平成18~27年度)、日本学術会議連携会員(平成18~28年)を務め、社会的にも大きな貢献をした。 松山教授は視覚情報処理、分散協調処理に基づいた知能システムの研究に従事してきた。研究成果は数多くの学術論文や著書として発表されており、その業績及び学術界への寄与は文部科学大臣表彰科学技術賞、情報処理学会創立20周年記念論文賞、情報処理学会功績賞、コンピュータビジョン国際会議(ICCV)The Marr Prize、情報処理学会・電子情報通信学会・国際パターン認識連合(IAPR)各フェローなど多くの賞によって国内外から高く評価されている。

さらにこれらの研究のご功績により、正四位を叙せられ瑞宝中綬章を受章された。(平成29年1月8日閣議決定)

主な研究内容

  1. 知的画像認識・理解
    エッジを保ったスムージングや高精度Hough変換アルゴリズムなど論理判断を含んだ非線形画像処理手法の開発を行うとともに、黒板モデルおよびマルチエージェントモデルに基づいた分散協調型画像理解システムを開発し、複雑な航空写真の知的認識・理解に関する研究を世界に先駆けて行った。これらの画像理解システムに関する研究は、それぞれ英文研究叢書として出版され、国際的に高く評価された。
  2. コンピュータビジョン
    陰影情報からの3次元形状復元問題において、近接光源光がもたらす相互反射も考慮した非線形最適化アルゴリズムを考案し、コンピュータビジョン分野における最高峰の国際会議ICCV95において最優秀論文賞(The Marr Prize)を受賞した。またネットワーク結合された多数の能動カメラ群を用いた分散協調視覚システムによる複数人物のリアルタイム協調追跡および3次元ビデオの生成・編集・圧縮・表示の実現においても顕著な業績を挙げ、その成果は英文研究叢書として出版され、国際的に高く評価されている。また、英国Surrey大学、仏Inriaとの間の国際共同研究プロジェクトの実施、数多くの新聞、ニュース番組での報道など国際交流、社会的にも大きな貢献を果たした。
  3. ヒューマンコミュニケーション
    「人間と共生する情報システム」という新たな人間-機械のインタラクションモデルを提唱し、自然なコミュニケーションを成立させる重要な要素として、微妙な表情変化や発話のタイミング、間(ま)の取り方といった非言語情報のダイナミクスに焦点を当て、複雑かつ多様なダイナミクスを、物理的現象記述に適した力学系モデル(微分方程式系)と、人間の心的・知的活動のモデル化に適した情報系モデル(記憶書き換え系)を統合したハイブリッド・ダイナミカル・システムにより表現する新たなアプローチを提案し、コミュニケーションにおける視覚的・聴覚的間合いや視線運動の分析における有用性を示した。これらの研究は、様々な学会から論文賞が授与されるなど、その独創性、成果は高く評価された。
  4. 電力供給者の立場から電力ネットワークの高度な制御を目指すスマートグリッドに対し、情報通信技術を用いた需要家主体の分散協調型電力マネジメントの枠組みである「エネルギーの情報化」を提唱し、オンデマンド型電力制御、電力カラーリング、協調型エネルギーマネジメントといった多くの学術研究成果を生み出すとともに、実社会への展開を視野に入れた実証型の研究を推進してきた。その活動成果は、60社の企業が参加する産学連携コンソーシアムや、共同研究講座、スマートエネルギーマネジメント研究ユニットの創設として実を結ぶとともに、数多くの特許や報道発表として広く社会に認識されている。

以上の如く、松山隆司教授は永年にわたり視覚情報処理、分散協調処理に基づいた知能システムの教育研究を行い、学術研究、人材育成、国際交流、研究成果の社会展開に大きく貢献した。

◆歴代教授の業績◆ 乾 敏郎 (京都大学名誉教授)

略歴

在職期間: 平成10年4月9日-平成27年3月31日

乾 敏郎

乾 敏郎

昭和51年3月大阪大学大学院基礎工学研究科修士課程を修了後、同年4月に大阪大学人間科学部に採用され、教務職員を経て昭和58年3月助手に就任した。同年4月、京都大学文学部哲学科の助手に就任した。昭和62年1月に株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)視聴覚機構研究所に主任研究員として採用され、昭和64年には同研究所認知機構研究室の主幹研究員に昇格した。平成3年、京都大学文学部哲学科心理学教室の助教授に着任した。その後、平成7年に同学科教授に昇格、平成10年4月には情報学研究科の教授となった。 また、昭和60年1月23日に京都大学より文学博士の学位を授与された。

京都大学文学部助教授に就任以来17年に渡り、認知科学および認知神経科学の分野における教育と研究活動に精力的に携わり、多くの有為な人材を育成してきた。また京都大学在職中には、知能情報学専攻長、京都大学新センター構想検討会座長、こころの未来研究センター連携協議員などの学内委員を務めた。

学外においては、平成18年から金沢工業大学外部評価委員会委員、また平成20年より22年まで大阪大学G-COEプログラムの外部評価委員会委員を務めた。 学会活動に関しては、多方面にわたる学会に所属し、各学会理事などを以下のように務めている:電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーショングループ運営委員長・日本神経心理学会理事・日本認知心理学会常務理事・日本発達神経科学学会理事・日本高次脳機能障害学会評議員・日本神経眼科学会評議員・ヒト脳機能マッピング学会運営委員他多数。また、学術関係団体の各種委員も数多く務め、学術分野の設立と推進に貢献した:日本学術振興会科学研究費委員会専門委員、同最先端・次世代研究開発支援プログラム審査委員、同特別推進研究審査委員、文部科学省科学技術・学術審議会情報科学技術委員会委員、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)領域アドバイザ、同さきがけ領域アドバイザ等を担当した。

さらに専門研究機関の委員としての活動も多く、NTTヒューマンインターフェース研究所シニアアドバイザ、国際高等研究所学術参与、国際日本文化研究センター情報システム検討委員会委員など多くの委員を務めた。 また平成3年に電子情報通信学会より論文賞および米沢ファウンダーズ・メダル受賞記念特別賞、平成2年に日本神経眼科学会学術賞、など多くの学会賞を受賞している。海外での学術会議においてもAttention and Performance のExecutive Committeeを務めた。特に平成7年には、基礎心理学分野では世界最高ランクに位置づけられる国際会議Attention and Performanceを京都で主催し、世界各国の代表的な基礎心理学・生理学者の参加を得て、情報統合に関する国際シンポジウムを開催した。

乾教授の京都大学在職中の研究面での功績は主に以下の3分野において顕著であり、国内外の研究者に大きな影響を与えた。

主な研究内容

  1. 視覚の計算理論と心理物理学の研究 人間の視知覚過程を三次元世界の再構成問題として捉え、マルコフ確率場理論に基づくモデルを構築し、当時知られていた視覚生理学の多くのデータに基づいて「大脳視覚皮質の計算理論」を提案した。これは大脳の各領野間に双方向性結合が存在することにいち早く注目し、その計算アルゴリズムを提案した画期的なものであった。この考えはその後Fristonらによって「自由エネルギー最小化原理」として発展遂げ、現在では多くの研究者がこの考えの下に脳内ネットワークの研究を進めている。本研究によって平成3年電子情報通信学会より、米沢ファウンダーズ・メダル記念特別賞を受賞した。また、この計算理論に基づき予想された特性や現象について心理物理学的な実験研究を行い、人間の視知覚や視覚認知の特性をこの理論に基づき体系化させることに成功した。さらに、脳内でイメージを作りそれをダイナミックに変換する「イメージ機能」を実現する神経ネットワークについて、「イメージ生成と変換に関する仮説」を平成19年に提案した。その仮説はその後検証が進められ、平成26年に国際誌に発表した。
  2. 言語・非言語コミュニケーションの脳内過程に関する研究
    脳内での言語処理過程の基本的なメカニズムが視覚情報処理と同様に上述の順逆変換に基づくことを、平成7年に初めて指摘した。この考えを運動系列予測学習仮説と称して発表したが、臨床医学系において特に失語症を中心としたコミュニケーション障害の研究に大きな影響を与えることとなった。この功績によりその後、神経内科・精神科領域の中心的学会である日本神経心理学会において長年に渡り理事を務めることになった。 最近では更に主として他者の動作理解にかかわるとされるミラーニューロンシステムと言語機能の関わりに関する仮説を提案し、文の構文的意味を理解する脳内メカニズムをfMRI(機能的磁気共鳴映像法)やEEG(脳波)のみならず、ECoG(皮質脳波)を用いて明らかにしつつある。これはコミュニケーション機能が言語的か非言語かを問わずに統一的に扱う初めての枠組みである。
  3. 神経系の可塑性と発達障害に関する研究 上記2を通してコミュニケーション機能の獲得過程のみならず、コミュニケーション障害の発生機序についても研究を進めてきた。平成25年には、精神病理学的研究、組織病理学的研究、臨床病理学的研究、ならびに構造的・機能的イメージング研究における膨大な知見をふまえて、発達障害の中でも特にコミュニケーション障害を呈する自閉症とウィリアムズ症候群の脳内ネットワークの構造を明らかにし、国際誌に発表した。これに基づき、社会性の欠如だけでなく感覚・知覚特性の異質性まで含む多くの症状が 脳内の構造以上または機能不全に由来するものとして説明することができた。特に、脳幹形成期に発生した異常により、発達初期の辺縁系ネットワークにおいて抑制性ニューロンの正常な発達が阻害され,結合先の高次中枢のニューロンの可塑性にも異常を来して健常な細胞構築が阻害されることが様々な領野の構造・機能異常を惹き起こすことを示した。本研究は、発達科学のみならず、精神神経学の分野からも高い評価を得ている。

以上のように乾教授は、文理両分野に渡る学術的基礎に根ざした教育・研究活動で以って知能情報学における認知情報論分野の教育と研究に従事し、同学問分野、とくに人間の視知覚・視覚認知、コミュニケーション機能の進展に大きく貢献してきた。それらの功績は誠に大きく顕著なものがある。

◆歴代教授の業績◆ 奥乃 博 (京都大学名誉教授)

略歴

在職期間: 平成13年4月1日-平成26年3月31日

奥乃 博

奥乃 博

昭和47年3月 東京大学教養学部基礎科学科を卒業後、同年4月に日本電信話公社(現NTT)に採用、5月に武蔵野電気通信研究所に配属された。昭和 61 年 2月に基礎研究所主幹研究員に昇格すると同時に、スタンフォード大学コンピュータサイエンス学科知識システム研究所に客員研究員として長期出張し、昭和63年8月にソフトウエア研究所に復帰した。また、平成3年10月より平成4年4月まで東京大学工学部電子工学科客員助教授として出向した。基礎研究所を平成10年9月に退職後、同年10月から平成11年3月まで科学技術振興機構ERATO北野共生システムプロジェクト技術参与兼グループリーダを務めた。平成11年4月から東京理科大学理工学部情報科学科教授、平成13年4月から京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻音声メディア分野担任教授として採用された。また、平成8 年3 月に東京大学より博士(工学)の学位を授与された。

京都大学における在任期間は13年と短いものの、情報学・計算機科学の分野における教育と研究活動に精力的にたずさわり、多くの有為な人材を育成してきた。学内においては、知能情報学専攻長、工学部情報学科長等を務め、学科長は工学部工学研究科学科長専攻長会議において工学部関係だけに参加する仕組みを提案し、また、センター入試・学部入試に京都大学で電波時計を初めて導入した。

学外においては、平成 13 年和歌山大学の外部評価委員会委員を務めた。学会関連では、日本ソフトウエア科学会企画担当理事、人工知能学会広報担当理事、情報処理学会会誌担当理事、日本学術振興会特別研究員等審査会専門委員及び科学研究費委員会専門委員、大学評価・学位授与機構学位審査会学位審査委員、東京高等裁判所等の専門委員、新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO技術委員等を担当し、IEEE Fellow、人工知能学会フェローに選出された。また、平成25年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を、2013年度人工知能学会業績賞を受賞した。なお、情報処理学会理事として企画担当した特集号が、同学会創設以来、初めて完売するという記録的な成功を収めた。また。 ACM Intelligent Magazine、 Applied Intelligence、 EURSIP Journal of Audio, Speech, and Music Processing、 PALADYN Journal of Behavioral Roboticsの編集委員を務め、国際会議International Lisp Conference 2012や17th International Conference on Industrial, Engineering and other applications of Advanced Intelligence Engineering (IEA/AIE-2007) のプログラムチェアを務めた。

奥乃教授は、京都大学在籍中の研究面での功績は主に以下の 三分野において顕著であり、国内外の研究者に大きな影響を与えるものである。

主な研究内容

  1. 音環境理解:Bregmanの提唱する計算論的アプローチである音環境理解 (Computational Auditory Scene Analysis: CASA) を工学的な側面からとらえなおし、「聞き分ける」をキーワードにした研究の提案と普及に努めた。具体的には、複数話者同時発話からすべての話者の発話を抽出する「聖徳太子コンピュータ」の研究、多重音楽演奏音響信号から各楽器音やボーカルパートを抽出する音楽情報処理の研究、環境音から擬音語を自動認識する研究などに取り組んだ。特に、音楽情報処理研究は、優秀な若手研究者を数多く育て、平成21年の国立大学法人評価で高く評価された。
  2. ロボット聴覚: かつて20世紀のロボットは、人間と音声でインタラクションする際に接話型マイクロフォンを使用していたが、ロボット自身に耳をつける「ロボット聴覚」の研究を2000年に全米人工知能会議 (AAAI) で提唱し、音源定位・音源分離・分離音認識という3つの主要技術について先駆的な研究を展開した。ロボット聴覚ソフトウエアHARKをホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン (HRI-JP) と共同開発し、オープンソースとして公開した。国内外でHARKの講習会を毎年開催し、ロボット聴覚研究の可能性について教育宣伝し、技術の普及に努めた。また、日仏研究交流を長期にわたって行うなど、国際的な研究コミュニティの育成やにも努めた。これら一連の成果は、21世紀COEプログラムの外部評価で高く評価された。
  3. フィールド音響学:アマガエルの集団発声行動の数理モデル化に取り組む合原一究氏(当時修士2年)から相談を受けて開始した共同研究を通じて、三匹のカエルによる三相同期現象を世界で初めて観測することに成功した。音がすればLEDが光る音光変換デバイス「カエルホタル」を水田の畔に多数並べ、その点滅パターンをビデオカメラで観測することで、野外において多数のアマガエルが交互に鳴き交わす同期現象を発見した。このことから、アマガエル同士が縄張りを主張しやすいように鳴くタイミングを互いにずらしているという仮説に対し、結合振動子モデルによる定性的な説明を与えた。さらに、カエルホタルとHARKを併用した高度な観測を国際協力で進めた。これらの技術は動物行動学からも斬新な技術として高く評価された。

なお、奥乃教授は、京都大学赴任以前は、Lisp系言語の設計と実装、多重文脈推論システムとその高速化、日本最初の大学間ネットワークJUNETの国内普及のボランティア、日本最初のホームページの作者などとしても知られている。

以上の如く奥乃教授は、知能情報学における音声メディア分野の研究に従事し、同学問分野のパイオニアとして、特に音環境理解・ロボット聴覚・音楽情報処理等の進展に大きく貢献してきた。それらの功績は誠に大きく顕著なものがある。

◆歴代教授の業績◆ 後藤 修 (京都大学名誉教授)

略歴

在職期間: 平成15年4月1日-平成24年3月31日

後藤 修

後藤 修

昭和45 年3 月東京大学理学部物理学科を卒業した。
同大学大学院理学系研究科修士課程物理学専攻を経て、同大学院博士課程物理学専攻に進学し、
同51 年3 月同博士課程物理学専攻を単位修得退学した。
同年4 月埼玉県立がんセンター研究所研究員に採用され、同61年4 月同主任研究員に昇任した。
平成13年3月に同センターを退職し、同年4 月産業技術総合研究所生命情報科学研究センターアルゴリズムチームチーム長に就任した。
平成15年4月に京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻生命情報学講座担任となる。
また、昭和54 年1 月には東京大学より理学博士の学位を授与された。
京都大学における在任期間は9年と短いものの、この間生命情報学の分野における教育と研究活動に精力的に取り組み、有為な人材の育成にたずさわった。
学内においては、平成19年より4年間、全学人権委員会の委員を務めた。学会等では、日本生物物理学会学会誌編集員、日本バイオインフォマティクス学会評議員を歴任し、平成20年4月より同21年3月まで日本バイオインフォマティクス学会学会長を務めた。
また、海外においては、Genome Informatics Workshop (GIW), Asia Pacific Bioinformatics Conference (APBC), IEEE International Conference on Computational Advances in Bio and Medical Sciences (ICCABS), IEEE International Conference on Bioinformatics and Biomedicine (BIBM), International Conference on Cytochrome P450 (ICCP)など多くの国際会議において実行委員、プログラム委員を務めている。

後藤教授は我が国の生命情報学研究の草分けとして知られているが、それにとどまらず、生物物理学、生化学・分子生物学、分子進化学を含む幅広い学問領域で多くの研究業績を挙げている。その主なものは次の通りである。

主な研究内容

  1. 生物物理学 遺伝情報の担い手であるDNA分子は生理的条件下では有名なワトソン・クリック型二重らせん構造を取るが、高温や高アルカリ溶液中では一本鎖へと転位する。 この転位(変性、融解)過程の詳細な測定結果と理論的に予測される結果とを照合することにより、10種類の最近接塩基対間相互作用の熱力学パラメーターを世界で始めて推定した。この結果は後にPCRのプライマー設計にも利用されている。
  2. 分子進化学 真核生物の細胞内に存在するミトコンドリアは細胞核とは別に独自のゲノムDNA(mtDNA)を持つ。mtDNAの制限酵素による切断パターンを比較することにより生物種間の遺伝的距離を簡便に測定する方法を開発した。 それを応用した研究により、世界に分布する野生家ネズミの系統関係が明らかになった。特に興味深い発見は、日本国内において2種類の系統が地域的に局在し、日本人の複数起源説に有力な証拠を与えたことである。
  3. 生化学・分子生物学 我々の服用する薬物は一定時間後に代謝・分解されることによって副作用の弊害を免れている。多様な薬物やその他の異物の代謝には多くの場合チトクロームP450という多重遺伝子族に属する酵素群が関与する。 後藤教授は生命情報学の手法を用いて動物P450の基質認識部位(SRS)を同定することに始めて成功した。この結果は生化学や分子生物学などの基礎生物学にとどまらず、薬学、医学、農学など応用科学の分野にも幅広い影響を与えた。 また、様々な生物種に存在する極めて多数のP450遺伝子に系統的な命名を与える国際的な委員会に参加した。この委員会で開発した命名手法は、他の多重遺伝子族遺伝子の系統的命名法のモデルとなっている。
  4. 生命情報学 生命情報学は1970年代に始まり、ヒトゲノム計画の進行とともに急速に発展した研究分野である。後藤教授はこの分野の創設者の一人として世界的に知られているが、 中でも配列比較アルゴリズムの開発において最も著名な業績を残している。京都大学に赴任した後にも、高速・高精度な遺伝子構造予測法や、 哺乳動物に代表される長大なゲノム塩基配列間の効率的な比較法の開発など常に先端的な研究を担ってきた。

これらの研究成果は、学術論文として欧文論文121 編に発表されたほか、英文・和文による総説、書籍や事典の分担執筆、翻訳などによっても公表されている。 さらに、インターネットを通じた開発プログラムの公開によって世界の研究者に貢献している。

以上の如く後藤教授は42 年間にわたって、生物物理学、生化学・分子生物学、分子進化学の分野で活躍するとともに、生命情報学分野の確立・進歩に大きく貢献した。

◆歴代教授の業績◆ 佐藤 雅彦 (京都大学名誉教授)

略歴

在職期間: 平成15年4月1日-平成24年3月31日

佐藤 雅彦

佐藤 雅彦

昭和 46年 6月東京大学理学部数学科を卒業後、同大学大学院理学系研究科修士課程数学専攻を経て、京都大学大学院理学研究科博士課程数学専攻に進学し、同 49年 3月同博士課程数学専攻を単位修得退学した。
同年 4月京都大学数理解析研究所助手に採用され、同 52年 4月東京大学教養学部数学教室助教授に昇任し、同 54年 4月東京大学理学部情報科学科助教授を経て、同 61年 4月東北大学電気通信研究所教授に昇任した。 平成 7年 7月京都大学大学院工学研究科教授となった。
同 10年 4月に新設された大学院情報学研究科に配置換、知能情報学専攻ソフトウェア基礎論分野担任となった。
また、昭和 52年 3月には京都大学より理学博士の学位を授与された。

この間永年にわたって、情報学の分野における教育と研究活動に精力的にたず さわり、多くの有為な人材を育成してきた。
学内においては、情報学研究科制規委員会委員長、計算機委員会委員長等を歴 任、外国向け広報誌『楽友 (Raku-Yu)』の編集委員長を務め、大学の運営に寄与した。

学外においては、
平成 11年九州大学大学院システム情報科学研究科の外部評価委員会委員、
同 13年科学技術動向研究センター専門調査員、
同 16年産業技術総合研究所研究ユニット評価委員会委員、
同 16年科学技術振興調整費ワーキンググループ委員、
同 21年東北大学情報科学研究科外部評価委員長、
同 18年より日本学術会議連携会員、
同 21年から 22年まで、理工系情報学科・専攻協議会会長等を務め、学術行政に尽力してきた。

学会等では、情報処理学会論文誌編集委員会委員、日本学術振興会特別研究員等審査会専門委員及び科学研究費委員会専門委員、学術審議会専門委員等を担当 した他、人工知能学会理事、日本数学会評議員、日本ソフトウェア科学会評議員等を歴任し、 また、日本数学会編集『岩波数学辞典 (第 4版)』常任編集委員として、「数学基礎論」、「数理論理学 ;離散数学」、「組合せ論 ;情報科学における数学」 の三部門を担当した。

海外においても、平成 12年から国際情報処理連合 (IFIP)ワーキンググループ 2.2(WG 2.2)「プログラミング概念の形式的記述」 (Formal Description of Program-ming Concept)の委員として活動し、 また、国際学術誌「 International Journal of Foundations of Computer Science」、「Journal of Applied Non-Classical Logics」,「New Generation Computing」の編集委員を務めた。

佐藤教授の研究面での功績は以下の 3つの分野において顕著である。その主な内容は,次の通りである。

主な研究内容

  1. 数理論理学に関する研究
    「人工知能」 (artificial intelligence)という用語を作り出したスタンフォード大学のジョン・マッカーシー (John McCarthy)教授が、人工知能研究のために考案した知識の論理学についてマッカーシー教授と共同で研究し、体系のクリプキ意味論を与えて完全性を証明した。さらに応用として、様相論理の体系 S5についてカット除去定理が成り立つ形式化を与えた。知識の論理学の分野は、その後、計算機科学における分散計算の理論等にも応用されて大きく発展している。
  2. ソフトウェア基礎論に関する研究
    数理論理学に基づき、正しく動作することが保証されたプログラムを開発する手法として「構成的プログラミング」 (constructive programming)の概念を提唱した。この概念は、最近では、証明検証システム (proof assistant)における重要な概念として認識されるようになってきている。構成的プログラミングに関しては、林晋京都大学教授等による成書『構成的プログラミングの基礎』がある。さらに、佐藤教授はエディンバラ大学のバーストール (Rod Burstall)教授との共同研究で明示的代入の概念を拡張した明示的環境の概念を導入し、その有用性を示した。また、最近ではハーバード大学のポラック (Randy Pollack)博士と共同でラムダ項 (lambda term)のデータ構造を抽象的に特徴づける研究を継続している。
  3. ソフトウェアの開発
    佐藤教授はこれまでにいくつかの有用なソフトウェアを開発し、オープンソースソフトウェアとして公開してきている。オープンソースのテキストエディターとして有名な Emacsの上で、 viエディターを模倣するパッケージである vip-modeを開発した。 vip-modeは Emacsの標準的なパッケージとして 1986年から採用されている。 vip-modeはその後、全世界の多くのプログラマーにより改良され、現在は改良版である viper-modeが使われるようになってきている。また、 1987年には Emacs上で動作する最初の日本語入力プログラム SKKを開発し公開した。 SKKは現在では、リナックス (Linux)の多くのディストリビューションで採用されているだけでなくウィンドウズ (Windows)および Mac OS Xのもとでも動作するシステムが有志により開発、公開されている。さらに計算と論理に関する講義科目を補完するための演習システムも独自に開発し、京都大学工学部、理学部および筑波大学、千葉大学において活用した。

以上の如く佐藤教授は、知能情報学におけるソフトウェア基礎論分野の研究に創成期から従事し、パイオニアとして、同学問分野の進展に大きく貢献してきた。それらの功績は誠に大きく顕著なものがある。 以上の如く佐藤教授の功績は,国内外の研究者に大きな影響を与えてきた。

◆歴代教授の業績◆ 小林 茂夫 (京都大学名誉教授)

略歴

在職期間: 平成10年4月9日-平成24年3月31日

小林 茂夫

小林 茂夫

昭和45年3月京都大学工学部電子工学科を卒業した。
同49年東京大学大学院教育学研究科修士課程を経て同博士課程に進学した。
同52年3月同課程を退学し、同年4月山口大学教養部に助手として採用された。
同60年4月助教授に昇任し、同61年5月京都大学教養部助教授、平成9年総合人間学部自然環境学科教授に昇任した。
同10年、新設された大学院情報学研究科に配置換、知能情報学専攻生体情報処理分野担任となる。
また、昭和61年9月には東京大学より教育学博士の学位を授与された。

この間、長きにわたり生物学、情報学の分野における教育と研究に携わり、有為な人材を育成してきた。
学内においては、男女共同参画委員、動物実験委員、DNA委員を勤めた。
学会等では、生理学会評議員、神経科学会、原生動物学会、米国神経科学会の会員として活動している。

小林教授は、生物のしくみと人工システムとを比較・考察することで独自の研究領域を生みだし先進的な研究業績を挙げている。
そのおもなものは次の通りである。

主な研究内容

  1. 体温調節、温・冷感覚
    生理学は、これまで、動物の温度受容器は物理量を神経インパルスの符号に変換して脳に送る変換器(センサー)ととらえてきた。しかし、ネズミなど動物の脳に温度計はない。 これに対し、温度受容器は、皮膚温を閾温と比べ、温度差に応じて神経インパルス活動を引き起こす比較器であり、自律性・行動性の効果器を駆動することで温度を調節するサーモスタットであることを明らかにした。これは、脳の標的細胞の中に皮膚に冷感を生むデータが生得的に備わるとの見方を示すもので、感覚の説明を一変させる。
  2. 温度受容チャンネル 皮膚の高温受容器、低温受容器の遺伝子は、Transient Receptor Potential (TRP)チャネルに属す。TRP温度チャネルの機能を分子生物学的方法、電気生理学パッチクランプ法で解析した。 また、低温受容器TRPM8チャネルの遺伝子欠損マウスを用いて、TRPM8チャネルそのものが冷感や自律性産熱応答を引き起こす皮膚温のサーモスタット分子であることを証明した。これは、深部体温の調節が体温調節だとする伝統的な 見方に挑戦する。
  3. 単細胞生物(ゾウリムシ)の記憶
    神経科学の目的は、感覚や記憶などの心を説明することとされる。
    しかし心が存在する場所はいまだ不明であり、その研究方法が見つかっていない。心の存在場所を明らかにするために、単細胞動物のゾウリムシを調べ、 ゾウリムシが連合学習することを示した。つまり、ゾウリムシの細胞内に連合記憶が可能な心があることを明らかにした(細胞説)。これは、神経回路の中に心があるとする伝統的な見方(回路説)に挑戦する(投稿中)。

1. と 2. の研究成果は、学術論文として英文論文56編、和文著書2冊に発表された。

以上のごとく、小林教授は、35年間にわたって、生物学に独自の見方を取り入れ、情報学のすそ野を広げる仕事の確立・進歩に貢献した。

◆歴代教授の業績◆ 池田 克夫 (京都大学名誉教授)

略歴

在職期間: 平成10年4月9日-平成13年3月31日

池田 克夫

池田 克夫

昭和35年3月京都大学工学部電子工学科を卒業後、京都大学大学院 工学研究科修士課程電子工学専攻を経て、同40年3月京都大学大学院工学研究科博士課 程電子工学専攻を単位取得満期退学した。
同年4月京都大学工学部助手に採用され、同46年4月同助教授に晃任、同53年5月筑波大学教授に昇任し、電子・情報工学系に所属 した。

昭和63 年8 月京都大学工学部教授に配置換えになり、工学部情報工学科情報基礎 論講座を担当した。
その後、大学院重点化に伴い、平成8 年4 月京都大学大学院工学研究 科情報工学専攻知能情報学講座情報処理システム分野を担当、情報学研究科の新設に伴い、 平成1 0 年4 月京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻知能情報ソフトウエア講座知 能情報応用論分野を担当した。
また、昭和5 3 年1 月には京都大学より工学博士の学位を授与された。

この間永年にわたって、学生の教育と研究者の指導にあたり、多くの人材を育成してき た。
学内においては、
平成元年5 月より同9 年3 月まで工学部附属高度情報開発実験施設長、
平成5年11月より同10年4月まで学術情報システム整備委員会技術専門委員会委員長、
平成7年12月より同13年3月までスペースコラボレーションシステム事業委員会委員長、
平成10年4月より同10年3月まで大学院情報学研究科長を務めた。

学外においては、図書館情報大学図書館情報学部、広島大学、大阪大学、三重大学、名古屋大学及び豊橋技術科学大学のそれぞれのエ学部の講師を兼任し、 他に奈良先端科学技術大学院大学の創設準備委員会委員、広島市立大学の設置準備委員会委員を務めた。
また、東京大学大学院工学研究科の外部評価委員、奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科アドパ イザー委員会委員、東北大学電気通信研究所運営協議会委員なども務め大学の教育だけで なく、設置、運営に尽力している。 さらに、文部省学術審議会専門委員、同大学設置・学 校法人審査会専門委員、同大学入試センター運営委員会委員を務めるとともに、郵政省情 報通信プレークスルー推進審議会委貝、同電気通信技術審議会専門委員、科学技術庁科学 技術会議専門委員などを務め、学術行政、科学技術行政に尽力した。

海外においても、多くの国際会議に出席するだけでなく、インターネットとその応用に関す る国際会議のプログラム委員長、国際雑誌情報処理レターの編集主幹を務め、情報技術の 普及に大きく貢献した。

また、平成10年10月工業標準化事業功労者として通商産業大臣より表彰を受けた。
同人はこれまで3 6 年間にわたり情報工学の研究と教育に関して多 くの業績を挙げているが、その主なものは次のとおりである。

主な研究内容

  1. 情報工学に関する研究
    同人はわが国の情報工学研究の開拓者の一人として、基礎的研究から応用的なネットワ ークの構築研究に至るまでの全領域において多くの優れた研究を行った。基礎研究として は、計算機によるパターン認識と人工知能の研究において先駆的な研究を行っている。ま た、計算機はメディアであるとの立場から人聞に使いやすい計算機を作るための枠組みと して知能情報メディアを提唱し、人工知能、パターン認識、マルチメディア処理、インタ ーフェース技術を総合した領域を構築することの重要性を強調した。これらの成果は編著書「知能情報メディア」(総研出版、平成7年)にまとめられているが、同書はわが国にお ける最初のメディア処理に関する成書として高い評価を受けている。また、情報工学は計 算機を自分で作成するところから学習するべきであり、特に学生実験の課題設定と手順が 重要であるとの立場から、学生の実験指導を実践して大きな効果を挙げると共にわが国で も例を見ない教科書「情報工学実験」(オーム社、平成5年)をまとめている。同書は多く の大学で実験演習科目を設定するときに参考にされ、その効果は多大であった。
  2. ネットワークとインターネットに関する研究
    ローカルエリアネットワークの揺籃期から積極的に学内ネットワークの構築実験を進 め、実際に利用できるネットワークを構築することの重要性を示す優れた研究を行った。 画像のストリーミング伝送に関するプロトコルやATM ネットワークでのQOS 制御など、 変革の激しい技術を利用してネットワークを構築する困難の中で、さまざまなアイデアを ぐ実証し高い評価を受けている。
  3. パターン認識と人工知能に関する研究
    ステレオ画像処理や整合ラベリングの研究において学術の進歩に貢献した。 ステレオ画像処理は動的計画法が利用できることを実証し、高精度で3 次元形状が復元できることを 示した点で高い評価を受けている。さまざまな拘束条件を利用した整合ラベリングの手法 においては、画像処理の結果に適用することを通して常に応用を視点に入れた理論的研究 を進め、多大な成果をあげている。
  4. 知能情報メディアから情報学への研究
    計算機が計算をする機械から情報を扱う情報メディアに変わってきていることを提唱 し、誰にでも使いやすい情報メディアを作る重要性を早くから強調し、その具体的学問領 域として知能情報メディアという分野を提案した。 その中で、マルチメディア処理、適応 処理、対話処理という切り口から情報の扱い方を分類し、それぞれのカテゴリにおいてど のような研究を進めて行くべきかを提唱している。この研究を発展させて、西洋科学の枠組みを超えた情報を中心とした研究を進めるべく、 「情報学」を提案した。これらの研究成果は情報学研究科の基本的理念へと発展していった。これらの研究結果は学術論文として和文論文52編、欧文論文70編に発表された。

以上の如く池田克夫教授は36年にわたる情報工学、インターネットやパターン認識、 人工知能を含むメディア技術の専門分野において、斯学の進歩に大きく貢献した。 また、 情報工学の新領域の展開としての情報学の学問分野の構築に関し指導的役割を果たしてきた。

◆歴代教授の業績◆ 堂下 修司 (京都大学名誉教授)

略歴

在職期間: 平成10年4月9日-平成11年3月31日

堂下 修司

堂下 修司

昭和 33年 3月京都大学工学部電子工学科を卒業後、同大学大学院工学研究科修士課程電子工学専攻を経て、 同大学院博士課程電子工学専攻に進学し、同 38年 3月同博士課程電子工学専攻を単位修得退学した。
同年 4月京都大学工学部助手に採用され、同 40年 4月同助教授に昇任し、東京工業大学工学部助教授を経て、同 48年 7月京都大学工学部教授に昇任し、新設間もない情報工学科情報処理講座を担任した。
平成 8年 4月大学院重点化により大学院工学研究科教授、同 10年 4月に新設された大学院情報学研究科に配置換、知能情報学専攻知能メディア講座担任となった。
また、昭和 41年 9月には京都大学より工学博士の学位を授与された。

この間永年にわたって、情報学の分野における教育と研究活動に精力的にたずさわり、多くの有為な人材を育成してきた。
学内においては、大型計算機センター準備委員会委員・準備室員として同センターの創設に尽力し、
平成 8年 4月から現在まで京都大学大型計算機センター長を併任している。
また、学術情報システム整備委員会技術専門委員会委員長として、統合情報ネットワーク第一期システム (KUINS-I)の設計・導入を担当し、 その後も、学術情報システム整備委員会委員 長、統合情報ネットワーク機構 (KUINS機構)研究開発部門長として運営を担当している。情報処理教育センター協議員、総合情報メディアセンター協議員等も歴任している。

学外においては、昭和 61年 7月から平成 2年 3月まで文部省学術国際局科学官を併任した他、文部省学術審議会科学研究費分科会専門委員、日本学術会議情報工学研究連絡委員会委員 (幹事)、日本学術振興会特別研究員等審査会委員等を務め、学術行政に尽力してきた。 学会等では、電子情報通信学会評議員、情報処理学会理事、同学会関西支部長等を歴任した他、人工知能学会には設立当初から運営にかかわり、評議員・理事・副会長を経て、平成 6年 6月から同 8年 6月まで人工知能学会会長を務めた。 海外においても、平成 2年から現在まで国際情報処理連合 (IFIP)人工知能技術委員会 (TC12)に日本代表委員として参画している。

堂下教授は我が国の知能情報処理研究の草分けであり、多くの先導的な研究業績を挙げているが、その主なものは次の通りである。

主な研究内容

  1. 音声認識電子計算機の創成期より、音声の分析及び自動認識の研究に取り組み、多数の音素組みパターンの周波数解析を 行い、昭和 37年には音声タイプライタを発表した。 これは大阪万博にも展示されるほど、世界的に先駆的なもので、現在の音声認識システムの源流といえる。
  2. 人工知能形式的言語であるオートマトンの学習的構成、自然言語の論理的な解析、様々なシステムの診断・定性推論の研究を行った。 特にパルス回路における不連続変化の定性的解析法に関する研究は、昭和 62年に人工知能学会論文賞を受賞した他、世界的にも高く評価されている。
  3. 音声対話音声処理、自然言語処理、及び知識処理 (人工知能)を統合して、人間と音声で対話を行うシステムの研究を先導した。 これらの統合のモデルを提言し、音声対話システムとして実現したばかりでなく、平成 5年度から同 8年度にかけて文部省重点領域研究「音声・言語・概念の統合的処理による対話音声の理解と生成に関する研究」を代表者として推進した。

これらの研究成果は、学術論文として和文論文 63編、欧文論文 72編に発表された。 以上の如く堂下教授は 41年間にわたって、音声メディア処理、人工知能等を含む知能情報処理の分野のパイオニアとし て、同学問分野の確立・進歩に大きく貢献した。