歴代の教授

乾 敏郎 平成10年4月1日-平成27年3月31日
奥乃 博 平成13年4月1日-平成26年3月31日
後藤 修 平成15年4月1日-平成24年3月31日
佐藤 雅彦 平成10年4月9日-平成24年3月31日
小林 茂夫 平成10年4月9日-平成24年3月31日
池田 克夫 平成10年4月9日-平成13年3月31日
堂下 修司 平成10年4月9日-平成11年3月31日

 

◆歴代教授の業績◆ 乾 敏郎 (京都大学名誉教授)

◆略歴

乾敏郎 乾敏 郎

在職期間: 平成10年4月1日-平成27年3月31日

昭和51年3月大阪大学大学院基礎工学研究科修士課程を修了後、同年4月に大阪大学人間科学部に採用され、教務職員を経て昭和58年3月助手に就任した。同年4月、京都大学文学部哲学科の助手に就任した。昭和62年1月に株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)視聴覚機構研究所に主任研究員として採用され、昭和64年には同研究所認知機構研究室の主幹研究員に昇格した。平成3年、京都大学文学部哲学科心理学教室の助教授に着任した。その後、平成7年に同学科教授に昇格、平成10年4月には情報学研究科の教授となった。 また、昭和60年1月23日に京都大学より文学博士の学位を授与された。

京都大学文学部助教授に就任以来17年に渡り、認知科学および認知神経科学の分野における教育と研究活動に精力的に携わり、多くの有為な人材を育成してきた。また京都大学在職中には、知能情報学専攻長、京都大学新センター構想検討会座長、こころの未来研究センター連携協議員などの学内委員を務めた。

学外においては、平成18年から金沢工業大学外部評価委員会委員、また平成20年より22年まで大阪大学G-COEプログラムの外部評価委員会委員を務めた。 学会活動に関しては、多方面にわたる学会に所属し、各学会理事などを以下のように務めている:電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーショングループ運営委員長・日本神経心理学会理事・日本認知心理学会常務理事・日本発達神経科学学会理事・日本高次脳機能障害学会評議員・日本神経眼科学会評議員・ヒト脳機能マッピング学会運営委員他多数。また、学術関係団体の各種委員も数多く務め、学術分野の設立と推進に貢献した:日本学術振興会科学研究費委員会専門委員、同最先端・次世代研究開発支援プログラム審査委員、同特別推進研究審査委員、文部科学省科学技術・学術審議会情報科学技術委員会委員、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)領域アドバイザ、同さきがけ領域アドバイザ等を担当した。
さらに専門研究機関の委員としての活動も多く、NTTヒューマンインターフェース研究所シニアアドバイザ、国際高等研究所学術参与、国際日本文化研究センター情報システム検討委員会委員など多くの委員を務めた。 また平成3年に電子情報通信学会より論文賞および米沢ファウンダーズ・メダル受賞記念特別賞、平成2年に日本神経眼科学会学術賞、など多くの学会賞を受賞している。海外での学術会議においてもAttention and Performance のExecutive Committeeを務めた。特に平成7年には、基礎心理学分野では世界最高ランクに位置づけられる国際会議Attention and Performanceを京都で主催し、世界各国の代表的な基礎心理学・生理学者の参加を得て、情報統合に関する国際シンポジウムを開催した。

乾教授の京都大学在職中の研究面での功績は主に以下の3分野において顕著であり、国内外の研究者に大きな影響を与えた。

◆主な研究内容

1. 視覚の計算理論と心理物理学の研究
人間の視知覚過程を三次元世界の再構成問題として捉え、マルコフ確率場理論に基づくモデルを構築し、当時知られていた視覚生理学の多くのデータに基づいて「大脳視覚皮質の計算理論」を提案した。これは大脳の各領野間に双方向性結合が存在することにいち早く注目し、その計算アルゴリズムを提案した画期的なものであった。この考えはその後Fristonらによって「自由エネルギー最小化原理」として発展遂げ、現在では多くの研究者がこの考えの下に脳内ネットワークの研究を進めている。本研究によって平成3年電子情報通信学会より、米沢ファウンダーズ・メダル記念特別賞を受賞した。また、この計算理論に基づき予想された特性や現象について心理物理学的な実験研究を行い、人間の視知覚や視覚認知の特性をこの理論に基づき体系化させることに成功した。さらに、脳内でイメージを作りそれをダイナミックに変換する「イメージ機能」を実現する神経ネットワークについて、「イメージ生成と変換に関する仮説」を平成19年に提案した。その仮説はその後検証が進められ、平成26年に国際誌に発表した。

2. 言語・非言語コミュニケーションの脳内過程に関する研究
脳内での言語処理過程の基本的なメカニズムが視覚情報処理と同様に上述の順逆変換に基づくことを、平成7年に初めて指摘した。この考えを運動系列予測学習仮説と称して発表したが、臨床医学系において特に失語症を中心としたコミュニケーション障害の研究に大きな影響を与えることとなった。この功績によりその後、神経内科・精神科領域の中心的学会である日本神経心理学会において長年に渡り理事を務めることになった。 最近では更に主として他者の動作理解にかかわるとされるミラーニューロンシステムと言語機能の関わりに関する仮説を提案し、文の構文的意味を理解する脳内メカニズムをfMRI(機能的磁気共鳴映像法)やEEG(脳波)のみならず、ECoG(皮質脳波)を用いて明らかにしつつある。これはコミュニケーション機能が言語的か非言語かを問わずに統一的に扱う初めての枠組みである。

3.神経系の可塑性と発達障害に関する研究
上記2を通してコミュニケーション機能の獲得過程のみならず、コミュニケーション障害の発生機序についても研究を進めてきた。平成25年には、精神病理学的研究、組織病理学的研究、臨床病理学的研究、ならびに構造的・機能的イメージング研究における膨大な知見をふまえて、発達障害の中でも特にコミュニケーション障害を呈する自閉症とウィリアムズ症候群の脳内ネットワークの構造を明らかにし、国際誌に発表した。これに基づき、社会性の欠如だけでなく感覚・知覚特性の異質性まで含む多くの症状が 脳内の構造以上または機能不全に由来するものとして説明することができた。特に、脳幹形成期に発生した異常により、発達初期の辺縁系ネットワークにおいて抑制性ニューロンの正常な発達が阻害され,結合先の高次中枢のニューロンの可塑性にも異常を来して健常な細胞構築が阻害されることが様々な領野の構造・機能異常を惹き起こすことを示した。本研究は、発達科学のみならず、精神神経学の分野からも高い評価を得ている。

以上のように乾教授は、文理両分野に渡る学術的基礎に根ざした教育・研究活動で以って知能情報学における認知情報論分野の教育と研究に従事し、同学問分野、とくに人間の視知覚・視覚認知、コミュニケーション機能の進展に大きく貢献してきた。それらの功績は誠に大きく顕著なものがある。

 

◆歴代教授の業績◆ 奥乃 博 (京都大学名誉教授)

◆略歴

後藤 修 奥乃 博

在職期間: 平成13年4月1日-平成26年3月31日

昭和47年3月 東京大学教養学部基礎科学科を卒業後、同年4月に日本電信話公社(現NTT)に採用、5月に武蔵野電気通信研究所に配属された。昭和 61 年 2月に基礎研究所主幹研究員に昇格すると同時に、スタンフォード大学コンピュータサイエンス学科知識システム研究所に客員研究員として長期出張し、昭和63年8月にソフトウエア研究所に復帰した。また、平成3年10月より平成4年4月まで東京大学工学部電子工学科客員助教授として出向した。基礎研究所を平成10年9月に退職後、同年10月から平成11年3月まで科学技術振興機構ERATO北野共生システムプロジェクト技術参与兼グループリーダを務めた。平成11年4月から東京理科大学理工学部情報科学科教授、平成13年4月から京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻音声メディア分野担任教授として採用された。また、平成8 年3 月に東京大学より博士(工学)の学位を授与された。

京都大学における在任期間は13年と短いものの、情報学・計算機科学の分野における教育と研究活動に精力的にたずさわり、多くの有為な人材を育成してきた。学内においては、知能情報学専攻長、工学部情報学科長等を務め、学科長は工学部工学研究科学科長専攻長会議において工学部関係だけに参加する仕組みを提案し、また、センター入試・学部入試に京都大学で電波時計を初めて導入した。

学外においては、平成 13 年和歌山大学の外部評価委員会委員を務めた。学会関連では、日本ソフトウエア科学会企画担当理事、人工知能学会広報担当理事、情報処理学会会誌担当理事、日本学術振興会特別研究員等審査会専門委員及び科学研究費委員会専門委員、大学評価・学位授与機構学位審査会学位審査委員、東京高等裁判所等の専門委員、新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO技術委員等を担当し、IEEE Fellow、人工知能学会フェローに選出された。また、平成25年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を、2013年度人工知能学会業績賞を受賞した。なお、情報処理学会理事として企画担当した特集号が、同学会創設以来、初めて完売するという記録的な成功を収めた。また。 ACM Intelligent Magazine、 Applied Intelligence、 EURSIP Journal of Audio, Speech, and Music Processing、 PALADYN Journal of Behavioral Roboticsの編集委員を務め、国際会議International Lisp Conference 2012や17th International Conference on Industrial, Engineering and other applications of Advanced Intelligence Engineering (IEA/AIE-2007) のプログラムチェアを務めた。


奥乃教授は、京都大学在籍中の研究面での功績は主に以下の 三分野において顕著であり、国内外の研究者に大きな影響を与えるものである。

 

◆主な研究内容

1. 音環境理解:Bregmanの提唱する計算論的アプローチである音環境理解 (Computational Auditory Scene Analysis: CASA) を工学的な側面からとらえなおし、「聞き分ける」をキーワードにした研究の提案と普及に努めた。具体的には、複数話者同時発話からすべての話者の発話を抽出する「聖徳太子コンピュータ」の研究、多重音楽演奏音響信号から各楽器音やボーカルパートを抽出する音楽情報処理の研究、環境音から擬音語を自動認識する研究などに取り組んだ。特に、音楽情報処理研究は、優秀な若手研究者を数多く育て、平成21年の国立大学法人評価で高く評価された。

2. ロボット聴覚: かつて20世紀のロボットは、人間と音声でインタラクションする際に接話型マイクロフォンを使用していたが、ロボット自身に耳をつける「ロボット聴覚」の研究を2000年に全米人工知能会議 (AAAI) で提唱し、音源定位・音源分離・分離音認識という3つの主要技術について先駆的な研究を展開した。ロボット聴覚ソフトウエアHARKをホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン (HRI-JP) と共同開発し、オープンソースとして公開した。国内外でHARKの講習会を毎年開催し、ロボット聴覚研究の可能性について教育宣伝し、技術の普及に努めた。また、日仏研究交流を長期にわたって行うなど、国際的な研究コミュニティの育成やにも努めた。これら一連の成果は、21世紀COEプログラムの外部評価で高く評価された。

3. フィールド音響学:アマガエルの集団発声行動の数理モデル化に取り組む合原一究氏(当時修士2年)から相談を受けて開始した共同研究を通じて、三匹のカエルによる三相同期現象を世界で初めて観測することに成功した。音がすればLEDが光る音光変換デバイス「カエルホタル」を水田の畔に多数並べ、その点滅パターンをビデオカメラで観測することで、野外において多数のアマガエルが交互に鳴き交わす同期現象を発見した。このことから、アマガエル同士が縄張りを主張しやすいように鳴くタイミングを互いにずらしているという仮説に対し、結合振動子モデルによる定性的な説明を与えた。さらに、カエルホタルとHARKを併用した高度な観測を国際協力で進めた。これらの技術は動物行動学からも斬新な技術として高く評価された。

なお、奥乃教授は、京都大学赴任以前は、Lisp系言語の設計と実装、多重文脈推論システムとその高速化、日本最初の大学間ネットワークJUNETの国内普及のボランティア、日本最初のホームページの作者などとしても知られている。

以上の如く奥乃教授は、知能情報学における音声メディア分野の研究に従事し、同学問分野のパイオニアとして、特に音環境理解・ロボット聴覚・音楽情報処理等の進展に大きく貢献してきた。それらの功績は誠に大きく顕著なものがある。

 

◆歴代教授の業績◆ 後藤 修 (京都大学名誉教授)

◆略歴

後藤 修 後藤 修

在職期間: 平成15年4月1日-平成24年3月31日

昭和45 年3 月東京大学理学部物理学科を卒業した。
同大学大学院理学系研究科修士課程物理学専攻を経て、同大学院博士課程物理学専攻に進学し、
同51 年3 月同博士課程物理学専攻を単位修得退学した。
同年4 月埼玉県立がんセンター研究所研究員に採用され、同61年4 月同主任研究員に昇任した。
平成13年3月に同センターを退職し、同年4 月産業技術総合研究所生命情報科学研究センターアルゴリズムチームチーム長に就任した。
平成15年4月に京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻生命情報学講座担任となる。
また、昭和54 年1 月には東京大学より理学博士の学位を授与された。

京都大学における在任期間は9年と短いものの、この間生命情報学の分野における教育と研究活動に精力的に取り組み、有為な人材の育成にたずさわった。
学内においては、平成19年より4年間、全学人権委員会の委員を務めた。学会等では、日本生物物理学会学会誌編集員、日本バイオインフォマティクス学会評議員を歴任し、平成20年4月より同21年3月まで日本バイオインフォマティクス学会学会長を務めた。
また、海外においては、Genome Informatics Workshop (GIW), Asia Pacific Bioinformatics Conference (APBC), IEEE International Conference on Computational Advances in Bio and Medical Sciences (ICCABS), IEEE International Conference on Bioinformatics and Biomedicine (BIBM), International Conference on Cytochrome P450 (ICCP)など多くの国際会議において実行委員、プログラム委員を務めている。

後藤教授は我が国の生命情報学研究の草分けとして知られているが、それにとどまらず、生物物理学、生化学・分子生物学、分子進化学を含む幅広い学問領域で多くの研究業績を挙げている。その主なものは次の通りである。

 

◆主な研究内容

1. 生物物理学
遺伝情報の担い手であるDNA分子は生理的条件下では有名なワトソン・クリック型二重らせん構造を取るが、高温や高アルカリ溶液中では一本鎖へと転位する。 この転位(変性、融解)過程の詳細な測定結果と理論的に予測される結果とを照合することにより、10種類の最近接塩基対間相互作用の熱力学パラメーターを世界で始めて推定した。この結果は後にPCRのプライマー設計にも利用されている。

2. 分子進化学
真核生物の細胞内に存在するミトコンドリアは細胞核とは別に独自のゲノムDNA(mtDNA)を持つ。mtDNAの制限酵素による切断パターンを比較することにより生物種間の遺伝的距離を簡便に測定する方法を開発した。 それを応用した研究により、世界に分布する野生家ネズミの系統関係が明らかになった。特に興味深い発見は、日本国内において2種類の系統が地域的に局在し、日本人の複数起源説に有力な証拠を与えたことである。

3. 生化学・分子生物学
我々の服用する薬物は一定時間後に代謝・分解されることによって副作用の弊害を免れている。多様な薬物やその他の異物の代謝には多くの場合チトクロームP450という多重遺伝子族に属する酵素群が関与する。 後藤教授は生命情報学の手法を用いて動物P450の基質認識部位(SRS)を同定することに始めて成功した。この結果は生化学や分子生物学などの基礎生物学にとどまらず、薬学、医学、農学など応用科学の分野にも幅広い影響を与えた。 また、様々な生物種に存在する極めて多数のP450遺伝子に系統的な命名を与える国際的な委員会に参加した。この委員会で開発した命名手法は、他の多重遺伝子族遺伝子の系統的命名法のモデルとなっている。

4. 生命情報学
生命情報学は1970年代に始まり、ヒトゲノム計画の進行とともに急速に発展した研究分野である。後藤教授はこの分野の創設者の一人として世界的に知られているが、 中でも配列比較アルゴリズムの開発において最も著名な業績を残している。京都大学に赴任した後にも、高速・高精度な遺伝子構造予測法や、 哺乳動物に代表される長大なゲノム塩基配列間の効率的な比較法の開発など常に先端的な研究を担ってきた。

これらの研究成果は、学術論文として欧文論文121 編に発表されたほか、英文・和文による総説、書籍や事典の分担執筆、翻訳などによっても公表されている。 さらに、インターネットを通じた開発プログラムの公開によって世界の研究者に貢献している。

以上の如く後藤教授は42 年間にわたって、生物物理学、生化学・分子生物学、分子進化学の分野で活躍するとともに、生命情報学分野の確立・進歩に大きく貢献した。

 

◆歴代教授の業績◆ 佐藤 雅彦 (京都大学名誉教授)

◆略歴

佐藤 雅彦 佐藤 雅彦

在職期間: 平成10年4月9日-平成24年3月31日

昭和 46年 6月東京大学理学部数学科を卒業後、同大学大学院理学系研究科修士課程数学専攻を経て、
京都大学大学院理学研究科博士課程数学専攻に進学し、同 49年 3月同博士課程数学専攻を単位修得退学した。
同年 4月京都大学数理解析研究所助手に採用され、同 52年 4月東京大学教養学部数学教室助教授に昇任し、
同 54年 4月東京大学理学部情報科学科助教授を経て、同 61年 4月東北大学電気通信研究所教授に昇任した。
平成 7年 7月京都大学大学院工学研究科教授となった。
同 10年 4月に新設された大学院情報学研究科に配置換、知能情報学専攻ソフトウェア基礎論分野担任となった。
また、昭和 52年 3月には京都大学より理学博士の学位を授与された。

この間永年にわたって、情報学の分野における教育と研究活動に精力的にたず さわり、多くの有為な人材を育成してきた。
学内においては、情報学研究科制規委員会委員長、計算機委員会委員長等を歴 任、外国向け広報誌『楽友 (Raku-Yu)』の編集委員長を務め、大学の運営に寄与 した。

学外においては、
平成 11年九州大学大学院システム情報科学研究科の外部評価委員会委員、
同 13年科学技術動向研究センター専門調査員、
同 16年産業技術総合研究所研究ユニット評価委員会委員、
同 16年科学技術振興調整費ワーキンググループ委員、
同 21年東北大学情報科学研究科外部評価委員長、
同 18年より日本学術会議連携会員、
同 21年から 22年まで、理工系情報学科・専攻協議会会長等を務め、学術行政に尽力してきた。

学会等では、情報処理学会論文誌編集委員会委員、日本学術振興会特別研究員等審査会専門委員及び科学研究費委員会専門委員、学術審議会専門委員等を担当 した他、人工知能学会理事、日本数学会評議員、日本ソフトウェア科学会評議員等を歴任し、 また、日本数学会編集『岩波数学辞典 (第 4版)』常任編集委員として、「数学基礎論」、「数理論理学 ;離散数学」、「組合せ論 ;情報科学における数学」 の三部門を担当した。

海外においても、平成 12年から国際情報処理連合 (IFIP)ワーキンググループ 2.2(WG 2.2)「プログラミング概念の形式的記述」 (Formal Description of Program-ming Concept)の委員として活動し、 また、国際学術誌「 International Journal of Foundations of Computer Science」、「Journal of Applied Non-Classical Logics」,「New Generation Computing」の編集委員を務めた。

佐藤教授の研究面での功績は以下の 3つの分野において顕著である。その主な内容は,次の通りである.

 

◆主な研究内容

1. 数理論理学に関する研究
「人工知能」 (artificial intelligence)という用語を作り出したスタンフォード大学のジョン・マッカーシー (John McCarthy)教授が、人工知能研究のために考案した知識の論理学についてマッカーシー教授と共同で研究し、体系のクリプキ意味論を与えて完全性を証明した。さらに応用として、様相論理の体系 S5についてカット除去定理が成り立つ形式化を与えた。知識の論理学の分野は、その後、計算機科学における分散計算の理論等にも応用されて大きく発展している。

2. ソフトウェア基礎論に関する研究
数理論理学に基づき、正しく動作することが保証されたプログラムを開発する手法として「構成的プログラミング」 (constructive programming)の概念を提唱した。この概念は、最近では、証明検証システム (proof assistant)における重要な概念として認識されるようになってきている。構成的プログラミングに関しては、林晋京都大学教授等による成書『構成的プログラミングの基礎』がある。さらに、佐藤教授はエディンバラ大学のバーストール (Rod Burstall)教授との共同研究で明示的代入の概念を拡張した明示的環境の概念を導入し、その有用性を示した。また、最近ではハーバード大学のポラック (Randy Pollack)博士と共同でラムダ項 (lambda term)のデータ構造を抽象的に特徴づける研究を継続している。

3. ソフトウェアの開発
佐藤教授はこれまでにいくつかの有用なソフトウェアを開発し、オープンソースソフトウェアとして公開してきている。オープンソースのテキストエディターとして有名な Emacsの上で、 viエディターを模倣するパッケージである vip-modeを開発した。 vip-modeは Emacsの標準的なパッケージとして 1986年から採用されている。 vip-modeはその後、全世界の多くのプログラマーにより改良され、現在は改良版である viper-modeが使われるようになってきている。また、 1987年には Emacs上で動作する最初の日本語入力プログラム SKKを開発し公開した。 SKKは現在では、リナックス (Linux)の多くのディストリビューションで採用されているだけでなくウィンドウズ (Windows)および Mac OS Xのもとでも動作するシステムが有志により開発、公開されている。さらに計算と論理に関する講義科目を補完するための演習システムも独自に開発し、京都大学工学部、理学部および筑波大学、千葉大学において活用した。

以上の如く佐藤教授は、知能情報学におけるソフトウェア基礎論分野の研究に創成期から従事し、パイオニアとして、同学問分野の進展に大きく貢献してきた。それらの功績は誠に大きく顕著なものがある。

以上の如く佐藤教授の功績は,国内外の研究者に大きな影響を与えてきた。

 

◆歴代教授の業績◆ 小林 茂夫 (京都大学名誉教授)

◆略歴

小林 茂夫 小林 茂夫

在職期間: 平成10年4月9日-平成24年3月31日

昭和45年3月京都大学工学部電子工学科を卒業した。
同49年東京大学大学院教育学研究科修士課程を経て同博士課程に進学した。
同52年3月同課程を退学し、同年4月山口大学教養部に助手として採用された。
同60年4月助教授に昇任し、同61年5月京都大学教養部助教授、平成9年総合人間学部自然環境学科教授に昇任した。
同10年、新設された大学院情報学研究科に配置換、知能情報学専攻生体情報処理分野担任となる。
また、昭和61年9月には東京大学より教育学博士の学位を授与された。

この間、長きにわたり生物学、情報学の分野における教育と研究に携わり、有為な人材を育成してきた。
学内においては、男女共同参画委員、動物実験委員、DNA委員を勤めた。
学会等では、生理学会評議員、神経科学会、原生動物学会、米国神経科学会の会員として活動している。

小林教授は、生物のしくみと人工システムとを比較・考察することで独自の研究領域を生みだし先進的な研究業績を挙げている。
そのおもなものは次の通りである。

 

◆主な研究内容

1. 体温調節、温・冷感覚
生理学は、これまで、動物の温度受容器は物理量を神経インパルスの符号に変換して脳に送る変換器(センサー)ととらえてきた。しかし、ネズミなど動物の脳に温度計はない。
これに対し、温度受容器は、皮膚温を閾温と比べ、温度差に応じて神経インパルス活動を引き起こす比較器であり、自律性・行動性の効果器を駆動することで温度を調節するサーモスタットであることを明らかにした。これは、脳の標的細胞の中に皮膚に冷感を生むデータが生得的に備わるとの見方を示すもので、感覚の説明を一変させる。

2. 温度受容チャンネル
皮膚の高温受容器、低温受容器の遺伝子は、Transient Receptor Potential (TRP)チャネルに属す。TRP温度チャネルの機能を分子生物学的方法、電気生理学パッチクランプ法で解析した。
また、低温受容器TRPM8チャネルの遺伝子欠損マウスを用いて、TRPM8チャネルそのものが冷感や自律性産熱応答を引き起こす皮膚温のサーモスタット分子であることを証明した。これは、深部体温の調節が体温調節だとする伝統的な 見方に挑戦する。

3. 単細胞生物(ゾウリムシ)の記憶
神経科学の目的は、感覚や記憶などの心を説明することとされる。
しかし心が存在する場所はいまだ不明であり、その研究方法が見つかっていない。心の存在場所を明らかにするために、単細胞動物のゾウリムシを調べ、 ゾウリムシが連合学習することを示した。つまり、ゾウリムシの細胞内に連合記憶が可能な心があることを明らかにした(細胞説)。これは、神経回路の中に心があるとする伝統的な見方(回路説)に挑戦する(投稿中)。

1. と 2. の研究成果は、学術論文として英文論文56編、和文著書2冊に発表された。

以上のごとく、小林教授は、35年間にわたって、生物学に独自の見方を取り入れ、情報学のすそ野を広げる仕事の確立・進歩に貢献した。

 

◆歴代教授の業績◆ 池田 克夫 (京都大学名誉教授)

◆略歴

池田 克夫 池田 克夫

在職期間: 平成10年4月9日-平成13年3月31日

昭和35年3月京都大学工学部電子工学科を卒業後、京都大学大学院 工学研究科修士課程電子工学専攻を経て、同40年3月京都大学大学院工学研究科博士課 程電子工学専攻を単位取得満期退学した。
同年4月京都大学工学部助手に採用され、同46年4月同助教授に晃任、同53年5月筑波大学教授に昇任し、電子・情報工学系に所属 した。
昭和63 年8 月京都大学工学部教授に配置換えになり、工学部情報工学科情報基礎 論講座を担当した。
その後、大学院重点化に伴い、平成8 年4 月京都大学大学院工学研究 科情報工学専攻知能情報学講座情報処理システム分野を担当、情報学研究科の新設に伴い、 平成1 0 年4 月京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻知能情報ソフトウエア講座知 能情報応用論分野を担当した。
また、昭和5 3 年1 月には京都大学より工学博士の学位を授与された。

この間永年にわたって、学生の教育と研究者の指導にあたり、多くの人材を育成してき た。
学内においては、
平成元年5 月より同9 年3 月まで工学部附属高度情報開発実験施設長、
平成5年11月より同10年4月まで学術情報システム整備委員会技術専門委員会委員長、
平成7年12月より同13年3月までスペースコラボレーションシステム事業委員会委員長、
平成10年4月より同10年3月まで大学院情報学研究科長を務めた。

学外においては、図書館情報大学図書館情報学部、広島大学、大阪大学、三重大学、名古屋大学及び豊橋技術科学大学のそれぞれのエ学部の講師を兼任し、 他に奈良先端科学技術大学院大学の創設準備委員会委員、広島市立大学の設置準備委員会委員を務めた。
また、東京大学大学院工学研究科の外部評価委員、奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科アドパ イザー委員会委員、東北大学電気通信研究所運営協議会委員なども務め大学の教育だけで なく、設置、運営に尽力している。
さらに、文部省学術審議会専門委員、同大学設置・学 校法人審査会専門委員、同大学入試センター運営委員会委員を務めるとともに、郵政省情 報通信プレークスルー推進審議会委貝、同電気通信技術審議会専門委員、科学技術庁科学 技術会議専門委員などを務め、学術行政、科学技術行政に尽力した。

海外においても、多くの国際会議に出席するだけでなく、インターネットとその応用に関す る国際会議のプログラム委員長、国際雑誌情報処理レターの編集主幹を務め、情報技術の 普及に大きく貢献した。

また、平成10年10月工業標準化事業功労者として通商産業大臣より表彰を受けた。
同人はこれまで3 6 年間にわたり情報工学の研究と教育に関して多 くの業績を挙げているが、その主なものは次のとおりである。

 

◆主な研究内容

1. 情報工学に関する研究
同人はわが国の情報工学研究の開拓者の一人として、基礎的研究から応用的なネットワ ークの構築研究に至るまでの全領域において多くの優れた研究を行った。基礎研究として は、計算機によるパターン認識と人工知能の研究において先駆的な研究を行っている。ま た、計算機はメディアであるとの立場から人聞に使いやすい計算機を作るための枠組みと して知能情報メディアを提唱し、人工知能、パターン認識、マルチメディア処理、インタ ーフェース技術を総合した領域を構築することの重要性を強調した。

これらの成果は編著書「知能情報メディア」(総研出版、平成7年)にまとめられているが、同書はわが国にお ける最初のメディア処理に関する成書として高い評価を受けている。また、情報工学は計 算機を自分で作成するところから学習するべきであり、特に学生実験の課題設定と手順が 重要であるとの立場から、学生の実験指導を実践して大きな効果を挙げると共にわが国で も例を見ない教科書「情報工学実験」(オーム社、平成5年)をまとめている。同書は多く の大学で実験演習科目を設定するときに参考にされ、その効果は多大であった。

2. ネットワークとインターネットに関する研究
ローカルエリアネットワークの揺籃期から積極的に学内ネットワークの構築実験を進 め、実際に利用できるネットワークを構築することの重要性を示す優れた研究を行った。
画像のストリーミング伝送に関するプロトコルやATM ネットワークでのQOS 制御など、 変革の激しい技術を利用してネットワークを構築する困難の中で、さまざまなアイデアを ぐ実証し高い評価を受けている。

3. パターン認識と人工知能に関する研究
ステレオ画像処理や整合ラベリングの研究において学術の進歩に貢献した。
ステレオ画像処理は動的計画法が利用できることを実証し、高精度で3 次元形状が復元できることを 示した点で高い評価を受けている。さまざまな拘束条件を利用した整合ラベリングの手法 においては、画像処理の結果に適用することを通して常に応用を視点に入れた理論的研究 を進め、多大な成果をあげている。

4. 知能情報メディアから情報学への研究
計算機が計算をする機械から情報を扱う情報メディアに変わってきていることを提唱 し、誰にでも使いやすい情報メディアを作る重要性を早くから強調し、その具体的学問領 域として知能情報メディアという分野を提案した。
その中で、マルチメディア処理、適応 処理、対話処理という切り口から情報の扱い方を分類し、それぞれのカテゴリにおいてど のような研究を進めて行くべきかを提唱している。この研究を発展させて、西洋科学の枠組みを超えた情報を中心とした研究を進めるべく、 「情報学」を提案した。これらの研究成果は情報学研究科の基本的理念へと発展していった。

これらの研究結果は学術論文として和文論文52編、欧文論文70編に発表された。

以上の如く池田克夫教授は36年にわたる情報工学、インターネットやパターン認識、 人工知能を含むメディア技術の専門分野において、斯学の進歩に大きく貢献した。
また、 情報工学の新領域の展開としての情報学の学問分野の構築に関し指導的役割を果たしてきた。

 

◆歴代教授の業績◆ 堂下 修司 (京都大学名誉教授)

◆略歴

堂下 修司 堂下 修司

在職期間: 平成10年4月9日-平成11年3月31日

昭和 33年 3月京都大学工学部電子工学科を卒業後、同大学大学院工学研究科修士課程電子工学専攻を経て、 同大学院博士課程電子工学専攻に進学し、同 38年 3月同博士課程電子工学専攻を単位修得退学した。
同年 4月京都大学工学部助手に採用され、同 40年 4月同助教授に昇任し、東京工業大学工学部助教授を経て、同 48年 7月京都大学工学部教授に昇任し、新設間もない情報工学科情報処理講座を担任した。
平成 8年 4月大学院重点化により大学院工学研究科教授、同 10年 4月に新設された大学院情報学研究科に配置換、知能情報学専攻知能メディア講座担任となった。
また、昭和 41年 9月には京都大学より工学博士の学位を授与された。

この間永年にわたって、情報学の分野における教育と研究活動に精力的にたずさわり、多くの有為な人材を育成してきた。
学内においては、大型計算機センター準備委員会委員・準備室員として同センターの創設に尽力し、
平成 8年 4月から現在まで京都大学大型計算機センター長を併任している。
また、学術情報システム整備委員会技術専門委員会委員長として、統合情報ネットワーク第一期システム (KUINS-I)の設計・導入を担当し、 その後も、学術情報システム整備委員会委員 長、統合情報ネットワーク機構 (KUINS機構)研究開発部門長として運営を担当している。情報処理教育センター協議員、総合情報メディアセンター協議員等も歴任している。

学外においては、昭和 61年 7月から平成 2年 3月まで文部省学術国際局科学官を併任した他、文部省学術審議会科学研究費分科会専門委員、日本学術会議情報工学研究連絡委員会委員 (幹事)、日本学術振興会特別研究員等審査会委員等を務め、学術行政に尽力してきた。 学会等では、電子情報通信学会評議員、情報処理学会理事、同学会関西支部長等を歴任した他、人工知能学会には設立当初から運営にかかわり、評議員・理事・副会長を経て、平成 6年 6月から同 8年 6月まで人工知能学会会長を務めた。 海外においても、平成 2年から現在まで国際情報処理連合 (IFIP)人工知能技術委員会 (TC12)に日本代表委員として参画している。

堂下教授は我が国の知能情報処理研究の草分けであり、多くの先導的な研究業績を挙げているが、その主なものは次の通りである。

 

◆主な研究内容

1. 音声認識電子計算機の創成期より、音声の分析及び自動認識の研究に取り組み、多数の音素組みパターンの周波数解析を 行い、昭和 37年には音声タイプライタを発表した。
これは大阪万博にも展示されるほど、世界的に先駆的なもので、現在の音声認識システムの源流といえる。

2. 人工知能形式的言語であるオートマトンの学習的構成、自然言語の論理的な解析、様々なシステムの診断・定性推論の研究を行った。
特にパルス回路における不連続変化の定性的解析法に関する研究は、昭和 62年に人工知能学会論文賞を受賞した他、世界的にも高く評価されている。

3. 音声対話音声処理、自然言語処理、及び知識処理 (人工知能)を統合して、人間と音声で対話を行うシステムの研究を先導した。
これらの統合のモデルを提言し、音声対話システムとして実現したばかりでなく、平成 5年度から同 8年度にかけて文部省重点領域研究「音声・言語・概念の統合的処理による対話音声の理解と生成に関する研究」を代表者として推進した。

これらの研究成果は、学術論文として和文論文 63編、欧文論文 72編に発表された。 以上の如く堂下教授は 41年間にわたって、音声メディア処理、人工知能等を含む知能情報処理の分野のパイオニアとし て、同学問分野の確立・進歩に大きく貢献した。